美術家 森本紀久子とのコラボレーション
学生時代、京都・蹴上にあるアートスペース虹に頻繁に通っていた。三条通りに面した入り口は全面ガラスウィンドウで、前を通る度に展示が見たくて中に入ってしまう。アルミサッシの引き戸に木製の取手がちょこんと付いていて、それを摘まむようにしながらそろりと戸を開ける。民家を改造した空間は、小柄だけれども天井が高くて丈夫で、車一台の作品が入っても狭さを感じさせない。まるで茶室みたいだ。ここで出会う作品はどれも張りがあって生き生きしていた。画廊主の熊谷寿美子さんは、作家の話やご自身の戦中戦後の幼少期のことなど色々話してくださった。私はいつも緊張していたが、香りの良いお茶に和み、また作品を見て…と、よく長居していた。
ここで、森本紀久子さんの作品とご本人に出会った。最初は展示を見て、その年の暮れにあった恒例のカレンダー展に出品されていた作品を購入した。花のような手のような形の流木からつくられた「たった一つの彼岸花」という作品だった。ペラのカレンダーシートに不安定に吊られている様を見て即決した。その翌年の展覧会で初めてご本人とお会いしたとき、私の顔が良いと褒めてくださった。それは美形というより造形としての顔に引っかかりを感じてくださったようだった。これがきっかけで、私は次の展覧会で森本さんの作品のなかで踊ることになった。
峠の女
北鎌倉の山中にあるギャラリー POLALIS The Art Stageで開催された展覧会「緋の柩・蓋」にあわせて上演。草木が鬱蒼と生い茂った中に敷かれた「赤い道」が山上のギャラリーへと人を導く。彼岸になるとあちこちで白い彼岸花がにゅっと咲き出すこの山には、キクコ姫の墓があると聞いた。ブラックライトによって強烈な光彩を放つ「緋の柩」は、もとは奥会津の集落の民家にあった飼い葉桶だった。ここに供された草を牛馬が食んでいることを想うと、東北の馬と娘の異類婚姻譚オシラサマが連想された。私はどうしてもそこを訪ねたくなり、森本さんの知人でペンション美女峠のオーナーをたよって、現地、昭和村へ向かった。そこはお蚕ならぬ苧の里だった。古来よりここの人は麻から紡がれた野良着を纏っていた。この地で私は動物性ならぬ植物性の強かさと生命力の在りかを感じ取った。晩御飯には沼に生息するジュンサイをいただいた。夜道を散歩したその晩はスーパームーンだった。「峠の女」で私は、作品と同じ緋色に体を染めて踊った。
photo : Naoyuki Kawakami
上演:2014年10月4日 / POLALIS The Art Stage(北鎌倉), 森本紀久子個展「緋の柩・蓋」にて
振付・出演:古川友紀
美術:森本紀久子
improvisation performance at ギャラリーぶらんしゅ

photo : Akitoshi Matsuhara
上演:2016年7月11日, ギャラリーぶらんしゅ(大阪)
improvisation performance 赤い道 at 旧静山荘
上演|2016年11月11日 / 静山荘(宝塚), 宝塚現代美術てん・てんにて